頭部外傷とは、直接又は間接的に頭部に外力が作用して頭蓋内外の組織に器質的ないし機能的損傷を生じさせるものの総称である。
頭部外傷による損傷は、外力による衝撃が頭部に加わった瞬間に力学的機序によって生じる一時的損傷と、その後の生体反応の結果として生じる二次的損傷に分けられる。
また、解剖学的には、頭皮に開放創を伴う開放性頭部外傷と、頭皮や頭蓋骨の損傷を通さずに脳実質に起こる閉鎖性脳損傷(脳外傷)に区別される。
ア ゼネレリの分類
ゼネレリ(Gennarelli)は、頭部外傷を3つに分け、
(1)頭蓋骨骨折、
(2)脳実質の局所性損傷、
(3)脳実質のびまん性損傷
に分類した。
このうち、
(1)頭蓋骨骨折は、線状骨折、陥没骨折、頭蓋底骨折などである。
(2)局所性損傷は、硬膜外血腫(頭蓋骨と硬膜との間に血腫が生じるもの)、硬膜下血腫(硬膜と脳との間に血腫が生じるもの)、脳挫傷(脳の局所性損傷)、脳内血腫(脳の内部で血管が破裂して出血が生じ、血液の固まりができる状態)に分けられる。
そして、ゼネレリの分類では、
(3)びまん性脳損傷は、意識障害の程度と持続時間によって、大きく、軽症脳震盪、古典的脳震盪、びまん性軸索損傷に区分される。
この分類では、意識消失のない一時的な意識障害が軽症性脳震盪とされ、6時間以内の意識消失がある症状が古典的脳震盪とされる。
そして、びまん性脳損傷の重症形態を意味するびまん性軸索損傷は、臨床的には、昏睡が受傷直後から6時間以上持続するが、急性期の頭部CT検査などで特に脳の局所的損傷が認めないものとされた。
また、この分類では、びまん性軸索損傷を昏睡状態の持続時間と脳幹徴候の有無で3型に重症度を分類し、昏睡が6時間以上24時間未満持続する軽症型、昏睡が24時間以上持続し脳幹徴候のない中等度型、昏睡が24時間以上持続し脳幹徴候のある重症型に分類された。
イ アメリカ脳神経外科コングレスのびまん性脳損傷と局在性脳損傷の分類
コングレスの分類は、基本的にはゼネレリの分類に準じるが、軽症脳震盪と古典的脳震盪を意識障害の持続時間により再定義したものである。
この分類では、びまん性脳損傷は、
(1)脳震盪(軽症型)、
(2)脳震盪(中等症型)、
(3)脳震盪(重症型)、
(4)びまん性軸索損傷
に区別される。
(1)脳震盪(軽症型)は、一時的な神経症状あるも意識消失がないものとされ、
(2)脳震盪(中等症型)は、意識消失があるも5分以内に完全に回復するものであり、
(3)脳震盪(重症型)は、5分以上持続する意識消失とされる。
そして、
(4)びまん性軸索損傷は、びまん性脳損傷の最も重症型とされ、6時間以上昏睡が持続するものとされる。
脳実質は、頭蓋骨の中で髄液腔の中に浮かんでいるような状態で存在する。
交通事故等で頭部を強打した場合、力学的に並進運動をしている脳実質が頭蓋骨内面で破壊を受ける。
また、脳実質は、灰白質や白質、血管などで構成され、その性状は一様ではなく、実際の頭部外傷時の脳の動きは単純に一方向ではなくて大なり小なり回転性の運動が作用する。
この回転性の加速度衝撃の際、脳実質に大きなひずみが生じて組織的に剪断力が働き、この力は周辺に行くほど大きくなる。
このような頭部の回転加速度衝撃によって生ずる広範囲の脳損傷をびまん性脳損傷といい、びまん性軸索損傷は、加速度衝撃による軸索の伸展と断裂が基本的病変である。
軸索が直接断裂する場合と、伸展された軸索の機能的障害による二次的な断裂が生じる場合がある。
びまん性軸索損傷の臨床像は、頭部外傷直後から意識を失うことが特徴である。
重症の場合は、脳幹機能障害を伴い、深昏睡状態が除脳硬直や瞳孔の異常、呼吸の不整等とともに生じる。
片麻痺や眼筋運動障害なども脳幹症状である。
なお、びまん性軸索損傷と局在性脳損傷との混合型の存在も認められ、例えば、急性硬膜下血腫とびまん性軸索損傷の合併が認められる。
そして、びまん性軸索損傷は、画像的には、全般性脳室拡大と脳表の脳萎縮として確認できる(画像所見についての詳細は、「本章X.4.ウ」にて後述する。)。
これは、損傷を受けた軸索が清掃、除去され、その結果、白質の体積は減少して代償的に脳質が拡大するためである。また、軸索が変性に陥ると、神経細胞も逆行性に変性して脳皮質の萎縮が進行することによる。
さて、びまん性軸索損傷が軽度であれば、意識消失期間も短く、目が開く頃には話が通じる。
しかし、びまん性軸索損傷が強いときは、目が開いても、暫くは意思の疎通ができない。
発声したり、自己表現をしたりしない。
やがて体を動かすことが可能となっても、記憶力も悪く、聞いたこともすぐに忘れてしまう。
周囲とのコミュニケーションも悪く、ひどい時には尿便は失禁状態であり、道徳心も欠如する。
やがてよくなるにつれて運動能力が回復しても、ひどいときには理解力がないために周囲と衝突し暴力を振るったりする。
よくなる場合は、見当識が戻り色々な神経症状も軽くなり、次第に元の人格に戻っていく。
一般的な身体のリハビリは半年程度までであり、一応自宅に退院することになるが、後遺症が残る場合には記銘力が戻らず、適当に状況を理解せずに活動するため、目が離せず介護が必要となる。
社会復帰できても、周囲は依然と人格が変わったことに気付かないため、トラブルが生じる。
理性の欠如、状況判断の未熟などから感情が易変し、怒りっぽくなり、幼児的で暴力的になる。
受傷前の性格と一変してしまい、生活の管理、金銭管理、社会適応ができず、ひどい場合は施設収容が必要となる。
他方、軽症例では、物忘れや短気など、後述の高次脳機能障害が程度に応じて現れる。
びまん性軸索損傷の最重症形は遷延性昏睡であり、最軽症例は脳震盪である。
意識障害の重症度の基準としては、グラスゴーコーマスケール(Glasgow Coma Scale、以下「GCS」)と、ジャパンコーマスケール(Japan Coma Scale、以下「JCS」)が挙げられる。
GCSは、頭部外傷の意識障害の評価法として世界で最もよく使用されているものであり、JCSは、日本で最もよく普及している分類である。
GCSは、患者の体を先の尖ったもので突いたりして、その反応を点数化するスケールである。
開眼(eye opening)、運動反応(best motor response)、言語性反応(verbal response)をそれぞれ、E、M、Vとして、以下の表のように点数を出し、合計点で意識レベルを測定する。
| 大分類 | 小分類 | スコア |
| E. 開眼 | 4.自発的 | E4 |
| 3.言葉による | 3 | |
| 2.痛み刺激による | 2 | |
| 1.なし | 1 | |
| M.運動反応 | 6.命令に従う | M6 |
| 5.はらいのける | 5 | |
| 4.逃避的屈曲 | 4 | |
| 3.異常な屈曲 | 3 | |
| 2.伸展する | 2 | |
| 1.なし | 1 | |
| V.言語性反応 | 5.見当識あり | 5 |
| 4.錯乱状態 | 4 | |
| 3.不適当 | 3 | |
| 2.理解できない | 2 | |
| 1.なし | 1 |
例えば、呼びかけて目を開けたら3点(E3)、自分が今どこにいてなにをしているのかを言葉で説明できれば5点(V5)、痛み刺激を与えて刺激部位に手足を持ってくれば5点(M5)等と評価される。
GCS1315点が軽症、912点が中等症、8点以下が重症と分類され、予後との相関が高い。
もっとも、GCS912点の患者でも約4割に何らかの所見が認められる。
JCSは、以下の基準により意識レベルを測定するものである。
意識障害をきたしていると思われる症例に対し、
「T.刺激しなくても覚醒している状態」、
「U.刺激をすれば開眼するが刺激をやめると眠り込む状態」、
「V.刺激をしても覚醒しない状態」
の3段階に分け、次いで、
Tの群で「1、2、3」、
Uの群で「10、20、30」、
Vの群で「100、200、300」
と細かく分けられる。意識がはっきりしている状態は「0」とされる。
| Ⅲ.刺激をしても覚醒しない状態 | 300.痛み刺激に反応しない |
| 200.痛み刺激に反応して、手足を動かしたり、顔をしかめたりする。 | |
| 100.痛み刺激に対して、払いのける運動をする。 | |
| Ⅱ.刺激がすれば開眼するが刺激をやめると眠り込む状態 | 30.呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する。 |
| 20.簡単な命令に応じる。 | |
| 10.合目的な運動をするし、言葉も出るが、間違いが多い。 | |
| Ⅰ.刺激がなくても覚醒している状態 | 3.自分の名前、生年月日が言えない。 |
| 2.見当識障害がある。 | |
| 1.清明とはいえない。 | |
| 0.清明 |
参考文献
吉本智信『高次脳機能障害と損害賠償』(自動車保険ジャーナル、2004)
本多晃「高次脳機能障害の要件と損害評価」『民事交通事故訴訟・損害賠償算定基準』下巻(日弁連交通事故相談センター東京支部、第34版、2005)
益澤秀明『交通事故で多発する"脳外傷による高次脳機能障害とは" 見過ごしてはならない脳画像所見と臨床症状のすべて』(新興医学出版社、2006)