a 急性期
びまん性軸索損傷は、減速又は加速の加速運動が頭部に生じたときに生じる。
脳組織は、部位により硬さが異なり一様に歪むわけではないので、組織の歪みの差による断裂が発生する。
脳梁、上下脳脚、大脳白質などで、軸索や血管に一時性のびまん性損傷が生じる。
低血流下や呼吸不全による酸素濃度の低下などから広範囲の脳損傷が生じることもある。
重度の場合は、著明な脳浮腫をきたし、受傷後の数日間に脳全体の浮腫が生じ散る場合、脳室が小さくなる。
びまん性軸索損傷は、局在性脳損傷と同時に起こることもあるが、局在性脳損傷がないびまん性軸索損傷のみの場合、外傷直後のCT及びMRI画像では一見すると正常に見られることもある。
しかし、精度の高いMRIで観察すると、脳内(皮質下白質、脳梁、大脳基底核部、脳幹、小脳)点状出血が見られることがあり、びまん性軸索損傷と判断できる。
この点状出血は、吸収されていくこともあれば、融合して遅発性の脳内血腫として増大することもある。
また、脳室内出血や大脳鎌及び脳溝に沿うくも膜下出血を伴うことがある。
これらの出現部位は、頭部打撲部位と関連する。
前述の局在性損傷と同様、びまん性軸索損傷の場合も、CTよりもMRIの方が細かい病変を描出し、数日経つとFLAIR画像で高信号として外傷性くも膜下血腫、脳内小出血、白質及び脳梁損傷などが見られる。
また、脳浮腫は、T2で高信号として描出され、出血は数日経過するとT1で高信号として明瞭に描出される。
脳実質外の所見として、受傷数日後に、硬膜下又はくも膜下に液が貯留することがあり、1割程度が慢性硬膜下血腫に発展する。
通常は自然に減少し、全般性の脳室拡大と脳挫傷部位の局所的脳室拡大が見られる。
b 慢性期
びまん性軸索損傷により白質が損傷した結果、脳実質が全体として萎縮する。
慢性期には、CTおよびMRI画像で脳溝が拡大し、第3脳室及び第4脳室を含む全脳室の拡大が生じる。
脳室拡大の確定には、外傷直後、3ヵ月後、6ヵ月後などの時系列のCT及びMRI画像が大切である。
脳室の拡大は、受傷後のほぼ3ヶ月で固定するため、6ヶ月以降もさらに脳室の拡大が進行すれば、外傷以外の原因も考慮しなければならない。
脳室拡大の程度は、びまん性軸索損傷の重症度と相関関係にあり、高次脳機能障害と密接に関連する。
重症である遷延性意識障害の患者では大脳皮質や間脳だけでなく、脳幹部の萎縮も存在する。
そして、脳室拡大を画像により判断するにあたっては、基準線を決めて、時系列的に比較する。
同じ基準で、急性期と慢性期の画像を比較することが大切であり、そのためには、受傷当日の頭部画像を入手・観察することが非常に重要である。
一般に、脳室は、加齢により拡大するが、同年齢でも個人差が大きいため、年齢別の正常例と比較することは不適当であり、受傷当日の脳画像が参照されるべきである。
なお、受傷当日の頭部画像フィルムは受傷前の脳室サイズを反映するだけでなく、外傷前の脳病変のもろもろを反映しており、外傷後に脳梗塞や脳出血性病変が認められた場合、これが外傷当日にすでにあったかどうかを確認できる。
受傷後の急性期の画像が得られない場合は、比較対象として外傷前のものとするしかなく、また、全く画像が得られない場合は外傷直後の状態(意識障害の有無)が画像検査を必要としなかったかどうかという臨牀状態とあわせて判断する必要がある。
以下、実際の画像にもとづきこれらを検証するが、上記のとおり、びまん性軸索損傷の事例においては脳室拡大が重要なポイントとされる。
c 画像による具体的検証
(1)受傷直後は、ほぼ正常脳画像の事例
受傷当日は、左側頭部に頭皮打撲創が認められ、左傍矢状部白質内に淡い白点があるも脳内所見は、ほぼ正常である。
しかし、1週間後はT2強調画像では右放線冠傍矢状部白質に高輝度点が認められ、組織断裂出血の亜急性変化と考えられる。
そして、3ヶ月後は、著明な脳室拡大が認められる。
このように、受傷直後はほぼ正常でもびまん性軸索損傷と判断できる事例である。
(2)脳梁損傷が認められる事例
受傷当日は、左頭頂部頭皮が打撲で腫れ、左脳弓に小出血があり、左側脳室沿った出血が脳梁付近にのびて、脳梁損傷が疑われる。また、右前頭葉皮質下に淡い白点がある。
半年後には、脳室の全般的な拡大が著明である。脳表やシルビウス裂のくも膜下腔も開大し、さらにその外側には硬膜下液貯留の名残が薄く残っている。
5年後には、右上前頭回の皮質下に低信号域/高信号域が拡がり、滑走性脳挫傷痕が認められる。
また、冠状断の画像では、右帯状回から脳梁にかけて低信号域が見られ、脳梁が薄くなっており、脳梁損傷である。
(3)外傷性基底核出血が認められる事例
受傷1時間後には小さかった左基底核内側の出血が、3時間後にはこれが増大して血腫となり、水平液面も認められる。
右側頭葉にくも膜下出血と脳挫傷があり、左側の脳表から大脳鎌に沿った高密度の硬膜下血腫も生じている。
3日後には基底核の出血はさらに増大し、右方向への正中構造偏移が認めれる。
そして、1ヶ月後には、血腫は低密度となり、上記偏移は改善しているが、左前頭部に硬膜下あるいはくも膜下血腫が認められる。
最後に1年後には、脳外液貯留は消失しているが、左基底核に出血痕が残存し、脳室が著明に拡大していることが認められる。
吉本智信『高次脳機能障害と損害賠償』(自動車保険ジャーナル、2004)
益澤秀明『交通事故で多発する"脳外傷による高次脳機能障害とは" 見過ごしてはならない脳画像所見と臨床症状のすべて』(新興医学出版社、2006)
三村將ほか『高次脳機能障害マエストロシリーズ2 画像の見かた・使いかた』(医歯薬出版、2006)
本多晃「高次脳機能障害の要件と損害評価」『民事交通事故訴訟・損害賠償算定基準』下巻(日弁連交通事故相談センター東京支部、第34版、2005)