高次脳機能障害を客観的かつ定量的に判定することは難しい。
もっとも、外傷性の高次脳機能障害に特徴的である情動障害には容易に使えるテストが存在しないが、認知障害には定量的に計るテストは存在し、行動障害にも一応は定量的に計るテストが存在する。
これらの検査について、高次脳機能障害認定システム検討委員会「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムについて」と題する報告書(平成12年12月18日)では、以下のように報告されている。
「脳外傷による高次脳機能障害が認められる被害者に対して、ごく一般的に行われている神経心理学的検査としては、言語性IQや動作性IQを検査するWAISR(成人知能検査法)、言語性の記憶を検査する三宅式記銘力検査などがある。
これらの検査は、脳外傷による高次脳機能障害の特徴的な症状であるところの認知障害を評価するにはある程度適したものであるといえるが、もう一方の特徴的な症状であるところの人格変化を評価するものではなく、人格変化の評価法については現在もなお検討がなされている。
当検討委員会の各種症例検討においても、知能検査の結果は比較的良好であるにもかかわらず人格変化が顕著であったため、社会生活適応能力に支障が生じるケースのあることが明らかにされている。
したがって、神経心理学的検査の結果は、高次脳機能障害の症状の一部を表しているにすぎないというべきであり、この検査だけで重症度(等級)を判定することは適当ではない。保険実務上の対応としては、前記(1)の診療医の具体的所見を補足する資料として活用することが望ましい。
なお、高次脳機能障害が重症の場合、神経心理学的検査の実施自体が困難なケースもしばしば見られる。」
このように報告される理由は、多くの心理検査が被験者が最大限努力することが前提とされるため、詐病や神経症、注意力障害まで含めると客観的に常に正しい結果が得られるとは限らないこと、多くの心理検査は回復の過程を定量的に評価するために使われていることが多く、その人の特定の時点の1回のみの得点で異常かどうかの評価に使われているわけではないこと等によると思われる。
もっとも、この報告からは、神経心理学検査の結果は、これのみで重症度判定の資料とされるには至らないものの、診療医の所見の「補足」的資料とはいえ保険実務での活用が望まれており、臨床判定の際の有効な手段として相当の役割を果たしていると考えられるので、以下に整理して記載する。
知能テストは、一般に知識、見当識、記憶、計算などのテストであり、脳機能を全般的に評価する。知能が低い場合は、テスト方法すら理解できないので、被検者を最初に全般的に検査することが諸検査の出発点となる。
高次脳機能障害の被検者には、画像の変化に比べ知能障害が目立つことが少なくない。検査には、体調不良や心理状態が得点に影響を与える。
ア ウェクスラー成人知能検査 (WAIS-R;Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised)
世界で最も使用されている成人用の本格的な全般性脳機能検査である。検査自体が、WAIS-Rの専門家が実施する必要がある。
検査問題は、多元的・多角的に構成されていて、言語性検査(VIQ)は知識、数唱、単語、算数、理解、類似の下位検査から成り、動作性検査(PIQ)は絵画完成、絵画配列、積木模様、組み合わせ、符合の下位検査から成る。この両者を総合して総合IQ(TIQまたはFIQ)を算出する。
下位検査も含めて多数の正常人の標本をもとに標準化されていてそれぞれのIQが算定できる。
IQは、100点を中心として、15点が標準偏差になるようにされており、普通の人の100人のうち68人が85点から115点の間にある。
WAIS-Rは、最も優れた知能検査であるが、後述のMMSE等の簡易検査が5~10分程度でできるのに対し、2時間近く要し、老人や高次脳機能障害の被検者には極めて辛い検査である。
なお、頭部外傷による高次脳機能障害の場合、一般により多くの脳の機能が使われるPIQの方がVIQよりも低く出るとされる。ただし、このPIQの低下は改善される。
現在は、WAISのⅢ版である「WAIS-Ⅲ」が新たに改訂されて使用が開始されている。
イ ウェクスラー児童用知能検査 (WISC-R;Wechsler Intelligence Scale for Children-Revised)
6歳から16歳対象の知能検査であり、一般的には知能偏差値として知られている。
知能偏差値は集団内での知能の差異を表すのに有用である。
個人の得点と集団の平均点が一致すれば知能偏差値は100となり、平均が100、標準偏差が15であり、WAIS-R同様に普通の人の100人中68人が85点から115点の間にある。
この他、5~16歳までの児童・生徒を対象とした知能検査には、WISC-Ⅲがある。
ウ ミニメンタルステート検査 (MMSE;mini mental state examination)
見当識や記憶、注意、言語あるいは文章指示に従い、模写などの認知機能を評価する検査方法である。感情や思考障害などの評価は除外される。
この検査方法は、世界でもっとも広く用いられ、日付、場所、記憶、計算などを問うものである。下記検査事項のうち最初の2項目は見当識を見る簡便な検査方法として利用されている。
30点満点で、23点以下を痴呆とすると、感度(痴呆の人で23点以下を取る割合)0.8程度、特異度(正常の人で24点以上を取る割合)0.9程度といわれている。
23点以下が痴呆の疑いありとされているが、20点以下とする人もいる。
ベッドサイドにおいて短時間で実施できる有用な検査方法である。
スクリーニング(ふるいわけの為の検査)として適しているが、各機能の重症度の詳細を評価することには不十分であり、他のバッテリーとの併用が望ましい。
つまり、20点以上であっても記憶障害としては重度なケースもあるため、これのみで異常なしとの評価はできない。
エ 長谷川式簡易痴呆スケール改訂版(HDS-R)
現在、日本で最も広く用いられている簡易痴呆スケールであり、MMSEと同様に所要時間が短く簡便に全般的な評価を得ることが可能である。
時間・日付の見当識、記憶、計算などのテストである。
30点満点で20点以下を痴呆とすると、感度0.9、特異度0.8である。
20点以下を痴呆、21点以上が非痴呆とされ、重症度別の平均得点としては、非痴呆が24.3±3.9、軽度痴呆が19.1±5.0、中等度痴呆が15.4±3.7、やや高度の痴呆が10.7±5.4、非常に高度の痴呆が4.0±2.6である。
しかし、本来、簡易スクリーニング検査(ふるいわけの為の検査)であり、MMSEと同様に、21点以上であっても後述のRBMTでは重度記憶障害の場合も多いので、HDS-Rのみで痴呆と診断したり、重症度を評価してはならない。
オ 田中ビネー式知能検査
チップ、文字カード、はめ込み板などを用いて実施される知能検査である。
1947年に出版され、何度か改訂されている。
1987年改訂版までは、各問題の合格により精神年齢を決めて、IQを、
IQ=精神年齢(MA)÷暦年齢(CA)×100
で算出するものであった。
現行のものは、2005年版の田中ビネー知能検査Vとして出版されたものであり、14歳以上の被験者には精神年齢を算出せず、結晶性、流動性、記憶、論理推理の4分野について、もっぱら偏差値知能指数だけを求めるようになっている。
カ レーブン色彩マトリックス検査(RCPM;Raven's coloured progressive matrices)
表示された図案や図柄の中で一部欠落したところに当てはまると思われるものを選択図案の中から一つだけ選ぶといった検査である。
所要時間は20分程度なので、ベッドサイドで簡単に実施できる利点がある。
知的能力を測定する非言語性検査で、壮年期から老年期にかけての痴呆障害のスクリーニング検査として用いられることが多い。
この検査も多数の正常人の標本を元に標準化されていてIQ算定が可能である。
この検査は、思考能力しか検査しないために一般的には全般的知能検査とはいえないが、言語を介さずに正しい図形が選べればよいか、「はい、いいえ」の意思表示さえできればよいので、言語障害や運動障害ある被験者でも検査できるという利点がある。
キ グッドイナフ(人物画知能検査)
通常は3~9歳児までを対象とし、被験者に「男の子」「女の子」の人物画を描かせ、その絵により知能の発達度合いを測定する検査で、所要時間は5分程度である。
青年期以降の検査では、動作性知能検査ではなく、パーソナリティの追求に有用である。
ク コース(Kohs)立方体組み合わせテスト
被験者に図版を見せて、それと同じ模様を積木を使って再構成するテストである。
各課題ごとに所要時間で得点を与えて精神年齢に換算し、これを暦年齢で割ることでIQの換算が可能になっている。
上記RCPMと同様に、言語を必要としないため、失語症や外国人にも使用できるという利点がある。
ケ ベンダー・ゲシュタルト・テスト(BGT;Bender Gestalt test)
比較的簡単な幾何学図形を模写させる知覚・感覚テストであり、9枚のカードに1つずつ描かれた9個の幾何学模様を模写させるものである。このテストにより、脳の器質的障害、機能障害、分裂病、精神遅滞、脳腫瘍、アルツハイマー病などのスクリーニングに有効とされる。
実施時間は約5分である。
失語症とは、脳の損傷によって一旦獲得した言語機能(「聞く」「話す」といった音声に関わる機能、「読む」「書く」といった文字に関わる機能)が障害された状態をいう。「聞く」「話す」「読む」「書く」全てが障害される。
失語症は、構音器官の麻痺などによって構音に障害が生じる構音障害や、声の出なくなる失声症とは異なる。
失語症の分類は多くあるが、大きく一般的には、運動性失語(ブローカ失語、非流暢性失語)、感覚性失語(ウェルニッケ失語、流暢性失語)に分類される。
運動性失語症は、左前頭下回に位置するブローカ領域(ブロードマン第44野、本章U.1.ウ.d参照)の損傷によるものであり、その特徴は、話し言葉が流暢性に欠けるというものである。
他方、感覚性失語症は、左第1、第2側頭回後部に位置するウェルニッケ領野(ブロードマン第22野、本章U.1.オ.b参照)の損傷によるものであり、その特徴は、ブローカ失語とは対照的に、流暢ではあるが言い間違いが多く、発話量の割に内容が少ない点にある。
以下の検査は、失語性の検査であるために、特に痴呆などがない限りは、非失語症者は非常に高得点となる。
ア 標準失語症検査(SLTA;Standard Language Test of Aphasia)
失語症の有無、重症度、失語タイプの鑑別を行うもので、失語治療効果、自然回復について継時的な言語能力の変化を把握し、成績パターンから治療計画の立案等に役立つものとされる。
検査は、聴覚的理解、自発話(呼称、動作説明、漫画の説明)、復唱、語想起、音読(漢字、仮名)、読解(漢字、仮名)、自発書字・書き取り(漢字、仮名)、計算の計26の下位検査から成っている。この各モダリティについて、音節、単語、短文、文章のレベルでそれぞれ課題があり、その反応を完全正当から誤答までの6段階で採点する。
SLTAのプロフィール例は、以下を参照されたい。
検査に時間を要するが、それぞれの障害の重さがわかり、リハビリ計画に有用である。リハビリ施設ではSLTAがよく使用されている。
イ WAB失語症検査
自発話、話し言葉の理解、復唱、呼称、読み、書字、行為、構成の8つの主項目の下に38の検査項目があり、言語機能の総合的な検査を目的としたもので、言語症状の有無やタイプなどについて評価するものである。
失語症のタイプ分類については、日本版では、全失語(言語機能が全ての面で重度に障害されている失語)、前述のブローカ失語とウェルニッケ失語、健忘失語 (流暢で理解もかなり保たれるが名詞が思い出せないことが特徴で、そのときにその言葉の意味を説明したりする。
名詞の理解ができないこともある)の4分類につき、それぞれ流暢性、話し言葉の理解、復唱、呼称などの項目評価が可能となる。
失語症の分類ができることと、失語症の重症度を表す失語指数が算定できることが特徴で、検査には時間を要する。
ウ トークンテスト ( Token Test)
2種類の形、2種類の大きさ、5種類の色の組み合わせで総計20個のある板を用いるテストである。
口頭で、例えば、「小さい赤い四角と、大きい黒の丸を触りなさい」と指示し、聴覚的言語理解と短期記憶の2つが同時に検査される。
高次脳機能障害の重大な障害である記憶力の障害に関しては、以下のような検査がある。
ア 日本版ウェクスラー記憶検査(WMSR;Wechsler memory scale)
国際的に最もよく使用されている総合的な記憶検査である。
言語を使った問題と図形を使った問題で構成され、下記13の下位検査があり、100点を中心として15点が標準偏差である。
後述のRBMTなどの日常生活場面を想定した検査法とは異なり、記憶の各側面(言語性記憶、視覚性記憶、それらを総合した「一般的記憶」と記憶体系の基盤をなす「注意/集中力」、記憶の把握能力を検出する遅延再生といった5つの側面)を算出できる評価法である。
記憶の様々な側面を測定し痴呆をはじめ様々の疾患の記憶障害を評価するのに有効とされ、1674歳まで適用でき、所要時間も1時間弱であるため、病院やリハビリセンター等で幅広く利用されている。
現在ではWMSのV版である「WMSV」が新たに改訂されて使用されつつある。
イ 三宅式記銘検査(東大脳研式記銘検査)
聴覚性言語の記憶検査である。
2つずつ対にした有関連対語10対と、無関連対語10対を読んで聞かせた後に、片一方を読んでもう一方を想起させて10点満点の得点とし、同じ事を3回繰返す。
頭部外傷では、特にこの無関連対語の成績が悪くなる。
正確に標準化されているわけではないが、平均点は、有関係で1回目8.5点、2回目9.8点、3回目10点である。
無関係では、1回目4.5点、2回目7.6点、3回目8.5点である。
ウ ベントン(Benton)視覚記銘検査
主に脳損傷者を対象にした視覚性注意、視覚性記憶、視覚認知、視覚構成能力の評価を目的とした検査である。
単純な幾何学モデルを提示し、隠した後でモデル図形を同じサイズ、同じ場所に描かせるテストで、これにより視覚認知や視覚記憶などを調べる。
採点では、大きく分けて@省略や追加はないか、A歪みがないか、B固執性(新しい図形に移項できるか)、C回転はしていないか、D置き違いはないか、E大きさの誤りはないか、である。
提示する時間が5秒と10秒があり、再生までの時間も即時と15秒があり、即時記憶と短時記憶がテストできる。
問題ありとされる10枚のカードの正答数の基準は、15歳44歳が5以下、45歳54歳が4以下、
55歳65歳が3以下である。
エ Reyの聴覚性言語性記銘検査および視覚性記銘検査
言語性の記憶検査は、聴覚性言語の記憶検査であり、15個の単語を口頭で指示し、思い出させる。
これを5回繰り返した後で、新しい15個の単語に移り、最後に、最初の15個を思い出させるテストである。
視覚性記銘検査は、図形の模写と直後の記憶による再生である。これは、前述のベントン視覚記銘検査に似るが、それより複雑で言語化できない図形である。
この検査は正確には標準化されていないが、遅延再生の成績では、年齢20歳代では28点、30歳代で26点が平均となる。
オ digit span
最も簡単な記銘力テストで、数字を何桁まで記憶復唱できるかを見るものである。
順唱は通常7桁まで、逆唱は5桁まで可能とされている。
カ 火事のはなし
短い火事のはなしをして、直後と30分後に聞くという、非常に簡便なテストである。標準化はされていないが、正常人は10点以上といわれている。
キ リバーミード行動記憶検査(RBMT)
日常記憶の障害を検出し、治療効果を調べる目的で開発された。
日常生活をシミュレーションした検査内容であり、記憶を使う場面を想起して検査する。
同じ程度の難易度の課題が数種類用意されているため、練習効果を排除して記憶障害を継続的に評価できる。
検査所要時間は約30分で、年齢群別健常者得点との比較により、記憶障害と重症度が判断できる。
標準プロフィールとスクリーニングプロフィールがあり、標準プロフィール点で記憶障害とされるのは、39歳以下で19点以下、40歳59歳で16点以下、60歳以上は15点以下である。
スクリーニングプロフィール点で記憶障害とされるのは、39歳以下は7点以下、40歳59歳で7点以下、60歳以上は5点以下である。
記憶障害の重症度評価ができるだけでなく、課題が日常生活に近いため、社会復帰を目指した記憶の治療経過、回復の評価に使用できる。
具体的な検査内容としては、
(1)顔写真を示してその人の苗字を告げ、被験者に同じように復唱してもらう、
(2)ある物の隠し場所を被験者に伝え、被験者が探し出せるかどうかを試す、
(3)一定時間後に行う約束事を決めておき、タイマーなどでその時間になると、その約束事を行う。
(4)被験者に絵を見せて一定の遅延時間後に数ある絵を示してその中から当初の絵を当てさせる、
などである。
前頭葉外側穹隆部を損傷すると、遂行機能(行動を計画、立案、実行する能力)の障害が出現する。
遂行機能に関する検査を以下に説明する。
ア ウィスコンシン・カード・ソーティングテスト
(WCST;Wisconsin Card Sorting Test)
世界的に利用されている前頭葉機能検査で、とくに背外側部の障害の検出に有用であるとされている。
1組の反応カードを、色・形・数の3つの分類基準に基づいて並べ替えさせるテストであり、その並べ替えの基準が突然に変化するので、その基準が変わったことが認識できるかどうかと、それに気付くまでに何回くらい誤りをするかを見るものである。
このテストの評価は、達成されたカテゴリー数と、保続数、保続性誤り数によってなされる。
保続とは被験者が自分の考えた分類カテゴリーに固執し続けることをいい、保続性誤りは分類カテゴリーが変ったにもかかわらず、前に達成したカテゴリーにとらわれて誤反応する保続が一般的である。
下部セットとして、CA(達成カテゴリー数)、PEN(保続による誤り)がある。
このテストでは、CA6以下が問題ありとされている。
IQが低い人が行っても意味が少なく、知能テストでは異常が無いときにこのテストで低い点をとると意味がある。
イ 遂行機能障害症候群の行動評価
(BADS;Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome)
日常生活上の遂行機能に関する問題点を検出しようとする生態学的妥当性を意識した行動検査である。
カードや道具を使った下記6種類の下位検査と1つの質問紙から構成され、各下位検査を04点で評価し、全体の評価は各下位検査の評価点の合計、すなわち24点満点でプロフィール得点を算出することができる。
この検査で評価できる項目は、遂行機能の4つの要素である
(1)目標の設定、
(2)プランニング、
(3)計画の実行、
(4)効果的な行動
であり、日常生活上のルールを守り、課題(直面した問題)を解決する際に、妥当な行動計画を立て、調整して実行する能力がどの程度あるのかを評価している。
この検査は、様々な状況での問題解決能力を総合的に評価できる点に特徴があり、患者の日常生活を妨げる遂行機能障害の要因を明らかにすることは、認知リハビリテーションの計画や実施などの対策を考えていく上で有用な評価技法と考えられる。
ウ 前頭葉機能検査 (FAB;Frontal Assesment Battery)
前頭葉のスクリーニングテストで、特別な器具を必要としない以下の簡単な6種類からなる。非常に簡便で、かつ妥当性、信頼性とも高いテストバッテリーである。
類似問題 2つの言葉の似ている点を聞く
語の想起 ある語から始まる単語をできるだけ沢山言う
運動系列 検者と同じからだの動きを被検者にさせる
葛藤の支持 検者が1回たたくと被検者が2回たたき、検者が2回たたくと被検者が1回たたくように指示する
Go/NoGo 検者が1回たたくと1回たたき、2回たたくと1回もたたかない
把握行動 被検者の手に検者が触り、被検者が握り返すのを待つ。その後で今後は握り返さないように言う。そして、再び触る。
エ カナ拾いテスト
カナで書かれた短文の中で、「あ、い、う、え、お」に印をつけながら後で文の意味を問うテストである。一度に2つのことを処理する能力の有無を見るものである。
日本で考案されて痴呆のスクリーニングで膨大に使用されたために、年齢別に標準化されている。正答値を1点とし、誤答または付け忘れは参考値である。
各年代別の平均点があり、20歳代で44.1(30点以下が異常として検査対象とされる境界値、以下( )内同じ。)、30歳代で42.4(29)、40歳代で36.6(21)、50歳代で31.9(15)、60歳代で23.9(10)、70歳代で22.4(9)である。
オ 注意機能スクリーニング検査(DCAT)
ランダムに並んだ数字の中からある数字を抹消するというものであり、1文字、2文字、3文字の抹消を行いその処理能力と注意力を見る。
4、5分で容易に実施でき、3回実施して各回の作業量、見落とし率、作業変化率、虚報数(間違いの数)を見ることで注意の焦点化、維持、選択的注意、注意の切り替え、注意の分割をテストする。偏差値50が平均点である。
カ TMT;Trail Making Test
用紙に散在して描かれた125の数字やアルファベットを順番に線で結んでいくテストである。
パートAとパートBからなり、パートAは、紙面のランダムに配置された数字を順に並べさせる。
パートBは、紙面に数字だけでなくひらがなもランダムに配置されていて、数字と50音を交互に順番に線で結ばせるテストである。
正常人はパートAとBとで余り差がないが、前頭葉機能障害を持つ者には大きな差が生じる。
キ 半側空間無視検査(BIT;Behavioural Inattention Test)
半側空間無視とは、右半球前頭葉(下頭頂小葉)を中心とした障害により、片側(通常左側)の刺激に気付かない、又は反応しない症状のことをいう。
イギリスのWilsonらによって開発されたものであるが、日本式に改良されたBIT日本版では、日本人の健常人および脳損傷患者のデータをもとに正常値と妥当性が確立されている。
従来の検査法である線分抹消、文字抹消、星印抹消、模写などの通常検査に、日常生活場面を模して、写真や電話、メニュー、音読、時計などの行動検査を加えた2つのパートからなるのが特徴である。
この検査により、日常生活や訓練場面においての半側空間無視発現の予測や課題の選択への指針が得られる。
ク 習慣的に確立した行為の抑制障害評価 (Modfied Stroop Test)
パートTとパートUからなる。
パートTは、赤青緑黄のドット24個の色名を解答させる。
パートUは、赤青緑黄の4文字を意味と異なった色で合計24個書いておき、できるだけ早く色名
を解答させる。
そして、パートTとUの完了時間を比較し、時間差を評価する。
色のみに集中し無関係な文字情報を排除するテストである。
ケ 高、中、低テスト
高、中、低の文字を、高い、中間、低い高さに配列させるテストである。
2種類の課題からなり、位置とは無関係に音読する課題と、文字の位置が高、中、低のいずれかを述べる課題を、15秒ごとに繰り返す。
コ 聴覚性検出検査(AMM;AudioMotorMethod)
ト、ド、ポ、コ、ゴの5種類の似ている音を、1音/秒の速度で5分間聞かせる。
例えば「ト」の音を基準とすると、「ト」の音のときに合図するようにする。
各音はランダムに配列されていて、基準の音は1分間で10回現れ、合計して50回出現する。
正答率で評価するテストである。
サ 情報処理能力の検査(PASAT;Paced Auditory Serial Addition Task)
聴覚的注意(容量や選択性、配分能力)の評価に関するテストである。
ランダムに読み上げられる19の数字を1回ずつ足し算していく。
この足し算が行われている間に次の数字が示されるため、計算をしながらも、すぐ前に示された数字を覚え、かつ次の数字を聴き取らなければならない。
注意力のテストとして優れているとされるが、知能、計算能力の影響を受ける。
一般に、前頭前野の障害では、様々な症状が出現する。
前頭葉眼窩面損傷では、脱抑制、易刺激的な人格変化が生じる。行動の異常、意思決定の障害が現れ、仕事を継続することができない。帯状回全部損傷では、発動性の低下が生じ、無関心などになる。
人格特性の評価方法には、設定法、質問紙法、作業検査法、投影法の4つが存在する。
設定法は、患者の日常行動の直接観察である。
質問紙法は、紙で質問を行って、得られた解答から人格特性を評価する。
作業検査法は、一定の作業を実施し、作業経過を分析して人格特性を評価する。
投影法は、模様、絵画、文章などに対する患者の反応を求めて人格特性を推定する。
以下、人格特性評価法を記載するが、標準化されておらず、解釈に全ての研究者の意見の一致があるわけでもないので、常に批判は付きまとっている。
ア ロールシャッハテスト
現在、臨床に最も多く用いられている人格特定評価法である。
被検者に、左右対称のインクの染みを10枚見せて、その染みが何に見えるかを問いかけ、これに対する反応を分析することで被検者の認知能力と情動反応を推定する。
まず、各図版を被検者に提示して、自由に連想を列挙させて、全ての図版のテストが終わった後に質問を行う。
反応領域、反応決定因、反応内容、反応頻度の4種類に分類して分析する。
各反応を記号により表記し、量的および質的に分析して解釈する。
例えば、染みからコウモリを連想した場合、一般に連想活動の豊かさを示すとし、総合能力及び抽象思考能力を反映するとされている。
これに対し、部分反応を示した場合は、現実的で具体的な事物の処理能力を示すとされている。
イ 主題統覚検査(TAT;Thematic Apperception Test)
ある状況を描いた絵を被検者に示し、その絵を中心にして、その過去はどうであったか、未来はどうなるかを想像して空想的物語を創らせる投影的手法による人格検査法である。
上述のロールシャッハ検査法では形式的分析が主として行われるため被検者の心理的内容を明らかにすることが困難であるが、この点を補うものとして考案された検査である。
ウ 矢田部・ギルフォードテスト
質問紙法によるテストで、現在のものは、12尺度120項目からなっている。
被検者が、性格特性を記述した文章を読み、各質問に対し、「はい」「いいえ」「わからない」を選ぶものである。
テスト結果の粗点から5段階に直した標準点を求め、得点のプロフィールを作成し5分類に分けて判断する。
質問紙法によるため、基本的に自己評価で、客観的な意味での信頼性に乏しい点が欠点である。
エ ミネソタ多面的人格目録(MMPI;Minnesota Multiphasic Personality Inventory)
550項目の質問による質問紙法によるテストである。
「あてはまる」か「あてはまらない」を答え、「どちらでもない」ができるだけ少なくなるようにする。
質問に素直に答えているかどうかの尺度として、「疑問尺度(決断力に欠ける)」、「虚言尺度(嘘の回答をしている)」、「頻度尺度(注意力に欠ける)」、「修正尺度(自己防衛)」など以外に、精神病的な尺度がある。
オ 内田・クレペリンテスト
ドイツの精神学者クレペリンが精神作業を研究するために考案したものを日本の臨床心理学者内田勇三郎が発展させた人格検査である。
検査は、1桁の数字が沢山の行にわたって書かれており、その隣通しの数字を加算し、解答を数字の間に書き入れていくというものである。
15分作業したら、5分休憩し、再び15分作業する。
1分ごとの作業量と誤謬率を調べ、その時間曲線を書く。
正常の緊張による影響や休憩の効果等から作業能力と疲労性を測定して、被検者の仕事ぶりや意思の持続力等の特性を見るものである。
正常成人にみられる作業の時間経過を基準として、5段階に分類し、疑問型は精神作業の異常性、異常型は人格障害や精神病的状態によると推定する。
カ 樹木画による人格診断法(The Tree Test、バウム・テスト)
被検者が描いた「一本の実のなる木」について、全体的印象、樹木の形態、鉛筆の動き、樹木の位置の4側面から60項目余(全体的所見、鉛筆の動き、風景及び付属物、地平、根元、根、幹、枝、冠、果実、花、葉など)にわたって診断的解釈をし、人格特徴を分析、把握する。
幼児から成人までにわたり、精神発達遅滞、問題行動、情緒障害、精神障害、神経症などの様々な問題を持つ人に対して実施できる。実施時間は、3分から20分である。
ア 厚生労働省編一般職業適性検査(GATB;General Aptitude Test Battery)
9種類の適性能(知的能力、言語能力、数理能力、書記的知覚、空間判断力、形態知覚、運動共応、指先の器用さ、手腕の器用さ)を測定する。
イ バーセル指数(Barthel Index)
リハビリにおける日常生活自立度としてよく記載される。
日常生活動作における障害者や高齢者の機能的評価を数値化したもので、自立/部分介助に分けられる。
食事、車椅子からベッドへの移乗、整容、トイレ動作、入浴、平地歩行、階段昇降、更衣、排便コントロール、排尿コントロールの10項目を24段階で評価するもので、100点満点でスコアリングされる。
研究者によって数値が異なるので注意する必要がある。
ウ 標準高次視知覚検査(Visual Perception Test for Agnosia)
高次脳機能障害学会が開発した高次視知覚機能障害を包括的に捉える検査方法である。
検査は、視知覚の基本機能、物体・画像認知、相貌失認、色彩失認、シンボル認知、視空間の認知と操作、地誌的見当識の7大項目から構成され、115枚の図版及び評価用紙を用いて行われる。
エ 簡易上肢機能検査(STEF;Simple Test for Evaluating hand Function)
異なる大きさ、重さ、素材の立方体、球を10種類動かす速さを測定し、上肢の動作能力を評価し、所要時間から得点を算出する。
実用レベルに達した上肢の更なる細かい改善を見るテストである。
オ FIM;Functional Independence Measure
アメリカ合同リハ学会の評価法である。
その場で何かの行動をさせて採点する検査ではなく、実際の生活している状況を、運動系の項目と認知系の項目について、各項目7点(完全自立)から1点(全介助)で採点する。
運動系の項目には、セルフケア(食事、整容、清拭、更衣・上半身、更衣・下半身、トイレ動作)、排泄コントロール(排尿管理、排便管理)、移乗(ベッド・椅子・車椅子、トイレ、浴槽・シャワー)、移動(歩行、車椅子、階段)がある。
認知系の項目には、コミュニケーション(理解、表出)、社会的認知(社会的交流、問題解決、記憶)がある。
生活している状況がそのまま採点されるため実際の介護負担を反映するとされている。米国では、リハによる症状の改善を具体的に示す必要が生じFIMが使用されている。
参考文献
吉本智信『高次脳機能障害と損害賠償』(自動車保険ジャーナル、2004)
相澤病院総合リハビリテーションセンター『高次脳機能障害ポケットマニュアル』(医歯薬出版、2005)
石合純夫『高次脳機能障害学』(医歯薬出版、2003)