高次脳機能障害においては、その症状によっては特別な出費を余儀なくされる場合があり、その出費が当該交通事故と因果関係を有するものと認められるのであれば、その出費は損害賠償請求の対象となる。
以下、高次脳機能障害が残った事案において、認められたいくつかの例について検討する
重度の高次脳機能障害が見られる場合には、同時に「事理を弁識する能力を欠く常況にある(本人が一人で日常生活をすることができない等、本人の判断能力が全くない場合)」といえることもあると思われるが、このため、事故による損害賠償請求と併行もしくは先行して、成年後見の申立がなされる場合が多い。
事故によって高次脳機能障害が生じたことによって成年後見の申立がなされる場合、その申立費用は当該事故と相当因果関係を有するものとして、損害として認められることが多い(名古屋高判19.2.16、福岡地判17.7.12など)。
この成年後見申立費用の内、多くを「鑑定費用」が占めるため、「鑑定費用」として認める裁判例もある(横浜地判20.3.28(現金10万円を予納していた。)など)。
脳外傷による高次脳機能障害では、前述のように、麻痺等身体的な障害が併発することもあり、このような場合、歩行をはじめ日常動作が困難であったりするなどするために、被害者が日常生活を送るために、歩行用の杖をはじめ、介護用のベッドや車椅子等の購入が必要となる場合がある。これらの器具が必要と判断される場合、その購入費用は当該事故と相当因果関係を有する損害として認められる。
なお、被害者が居住する地方公共団体から無償で支給されていた事案における将来の装具費について、東京地判平成16.7.2は「同区の無償支給は、障害者の福祉増進を図るためのものであり、損害賠償とは異なる理念に基づくから、これによって加害者がその分の費用の支払を免れることは相当ではないし、将来にわたって確実に現在と同様の措置が継続される保障も必ずしも存しないから、将来の装具費等を検討するに当たっては、同区からの支給を考慮するべきではない」として、将来の装具費を損害として認めている。
被害者の症状によっては、家屋内の単純な歩行をはじめ、階段の昇降、入浴、トイレ等、自宅で生活するにあたって様々な支障が生じうる。このため、これらの支障が生じてしまうこととなった被害者が日常生活を送るためには、廊下等への手すりの取り付け、昇降リフト・ホームエレベーターの設置等の家屋の改造が必要となる場合もある。
被害者に生じている障害の内容および従来の家屋の構造から、これらの改造の必要性が認められる場合、その費用は事故と相当因果関係を有する損害として認められる。
もっとも、当該家屋の改造が、他の家族にとってもその利便性が向上する性質のものであるような場合には、その総額のうち相当な部分についてのみ相当因果関係を有する損害とされる(東京地判平成17.3.17は被害者の後遺症から必要性の認められる家屋改造は、同居する家族の生活の利便性を向上させるものであることも考慮して、改造費のうち必要性の認められる部分についての約70%を本件事故と相当因果関係を有する損害として認めた。)。
また、裁判時等、事故後ある程度の期間が経過してなお上記のような必要と主張する改造を行っていない場合(将来の改造費用等として主張するような場合)には、相当因果関係を有しないと認定されることもある(名古屋高判平成19.2.16など)。
上記のように、日常生活動作を行うにあたり、車椅子等を使用することが不可欠となった場合、従来本人の家族等が所有していた車両では被害者を運送することができないこともありうる。
そのため、本人を診療やリハビリ等のために病院等へ運送するにあたって、本人を車椅子等ごと乗車させることが可能な車両を新たに購入するか、従来から所有する車両の改造を行うことが必要となる場合がある。この必要性が認められる場合には、その費用は損害として認められる。
新たに車両を購入した場合には、購入者他被害者の家族の利便性の向上を享受することも認められる場合もあり、そのような場合には、家屋改造費において述べたと同様相当の割合のみが当該交通事故と相当因果関係を有する損害として認められることもあると思われる(名古屋高判平成19.2.16など)。
高次脳機能障害者については、その症状も様々であり、そもそも介護が必要である(あった)のか、またその損害額はいくらなのかが強く争われる。
この介護の問題については別項において検討する。
後遺障害逸失利益については、その労働能力喪失率で特に問題となる。
「労働能力の低下の程度については、労働省労働基準局長通牒(昭32.7.2基発第551号)別表労働能力喪失率表を参考とし、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故直後の稼働状況等を総合的に判断して具体的にあてはめて評価する」とされていることから(損害賠償額算定基準2008年(平成20年)版上巻(財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部))、本人の現実の労働能力の喪失率が、果たしてどれくらいであるのかということが強く争われることが多い。
この労働能力喪失率についても、判例を踏まえ後述する。
参考文献
(1)吉本智信『高次脳機能障害と損害賠償』((株)自保ジャーナル、第二版、2005)
(2)羽成守編『新型・非典型後遺障害の評価』(新日本法規、平成17年)
(3)松居英二「将来介護費」交通賠償論の新次元(平成19年)
(4)藤村和夫「将来の介護費について」交通賠償論の新次元(平成19年)
(5)和田勝ほか『介護保険の手引平成19年版』(ぎょうせい、平成19年)
(6)長瀬二三男『介護保険法の解説四訂版』(一橋出版、平成17年)
(7)鏡諭ほか『介護保険なんでも質問室改訂版』(ぎょうせい、平成18年)