自動車損害賠償保障法施行令2条別表第1(以下「別表」。)においては、介護を要する後遺障害として、1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」同2号「胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」、2級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」同2号「胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」が挙げられている。ここで、高次脳機能障害は1級1号と2級1号に該当し、1級と2級とは、その表現からも明らかなように、要介護の程度が「常時」であるか、「随時」であるかによって区別されている。
そして、3級3号においても、1級1号及び2級1号と同様に「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し」という要件が挙げられているものの、「介護」という単語は出てこず、代わりに「終身労務に服することができない」という要件があがっている。また、3級以下の他の後遺障害等級においても、「介護を要する」という要件は一切出てこない。
このような別表の記載に照らすと、1級及び2級と3級以下とでは、「介護」の要否がメルクマールとなっているといえる。そして、1級及び2級においては、介護が必要とされていることから損害として介護費用が一般的に認められている。
もっとも、裁判例を検討すると介護が要件とされていない3級以下であっても介護を要するとして介護費用(看視費用)が認められているものがある。
そこで、以下では、3級以下の高次脳機能障害が認定されたもので介護費用を争った裁判例を挙げて、いかなる条件のもとで介護が必要とされ介護費用が認められるのかを検討する。
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裁判例(1)大阪地判平成3年12月19日 (交民24巻6号1558頁) |
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| 年齢 | 31歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | くも膜下出血、脳挫傷、右腓骨骨折等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害3級3号 |
| 被害者側の状況 | 記銘力・計算力・判断力・思考力の各低下と書字・言語障害、右小脳失調、右握力低下等 |
| 介護内容 | 家族による応分の介助 |
| 認定された介護費用 | 近親者月額6万円(日額2000円) |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、上記被害者側の状況記載の原告の後遺障害の内容等から、原告は本件事故により、将来にわたり、食事、排便、着衣等の日常動作を独力で行う能力を完全に喪失した訳ではないが、これを相当程度制限されたため家族による応分の介助を要するとして、将来介護を認め、将来の介護費用を原告主張の41年間近親者月額6万円と算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、食事、排便、着衣等の日常動作を介助する必要があることを理由に随時介護を認めている。
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裁判例(2)前掲 頁神戸地判平成12年10月10日 (交民33巻5号1640頁) |
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| 年齢 | 74歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 左下腿骨骨折、頭部打撲、硬性膜下出血等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害5級2号 |
| 被害者側の状況 |
見当識障害、記銘力及び歩行能力が低下 要介護1の認定を受けている |
| 介護内容 | 家族による介護 |
| 認定された介護費用 | 近親者日額3000円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告が終身にわたり要介護の状態であると認定した上で、要介護1の認定を受け、定期的に低水準の介護サービスを受けていること、右サービスだけでは原告の介護は到底賄いきれず、家族が大半の介護をしていることから、将来介護を認め、将来の介護費用を近親者日額3000円と算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、介護保険における要介護認定を参考にしつつ、実際の介護状況に照らし合わせて、将来介護の要否を判断したものといえる。
なお、介護保険との関係については前掲参照。
| 裁判例(3)横浜地判平成15年7月31日(自保ジャーナル第1520号) | |
| 年齢 | 29歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 脳挫傷、びまん性脳損傷等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害5級2号及び複視12級の併合4級 |
| 被害者側の状況 | 記銘・記憶力障害、知能低下、易怒性や暴力行為などの感情障害が生じている |
| 介護内容 | 看視及び声かけ |
| 認定された介護費用 | 近親者日額3000円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、医師の意見書から、原告は症状固定後においても随時介護が必要であると認定した。
そして、介護の内容としては基本的に看視及び声かけであり、上記後遺障害の症状等や証拠からは、職業介護人によらなければならない事情は見当たらないとして、近親者日額3、000円と算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、随時介護の必要性がある旨の医師の意見書を重視し、看視及び声かけを基本とする随時介護が必要であると判断した。
| 裁判例(4)札幌地判平成17年1月27日(自保ジャーナル第1582号) | |
| 年齢 | 21歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 脳挫傷、顔面骨折、頭皮顔面挫創、左鎖骨骨折、左第4中足骨頸部骨折等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害3級3号及び外貌醜状7級12号等の併合1級 |
| 被害者側の状況 |
基本的に抑うつ気分で、自殺念慮が持続し、意欲が低下しており、気分不安定、自己中心的、他罰的であり、持続力に乏しく、易刺激的といった症状が発現 原告の母親が症状固定後も原告の介護に当たっている |
| 介護内容 | 随時の介助、看視、声かけ等 |
| 認定された介護費用 |
近親者日額7000円 職業介護人日額9000円+2000円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告の上記後遺障害の内容及び日常生活上の動作等についても、着替えや入浴等は自立して行えるようになったものの、刃物や火気に対する注意力が不足していて危険であり、食事摂取、身辺の清潔保持、安全保持、危機対応には援助が必要であり、炊事、外出、金銭管理、他人との意思伝達、社会的手続、公共施設の利用、文化的社会的活動も援助なしには行えず、休学中の大学への復学も見込まれない状態であることから、原告の高次脳機能障害の程度は後遺障害等級第2級3号に該当するものに近く、終生にわたって随時付添介護をし、その行動等を見守り教示する必要がある状態(介助・看視・声掛け等の必要な状態)にあるとした。
そして、原告の母親が現在まで介護に当たっているところ、母親の就労日及び67歳以降は職業介護人が必要であるとして、将来介護費用を原告の母親が67歳になるまでは休日年125日分近親者日額7000円、就労日240日分職業介護人日額9000円+近親者日額2000円として、それ以降は余命年数まで日額9000円+2000円と算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告の状態を詳細に認定した上で、食事摂取、身辺の清潔保持、安全保持、危機対応といった生存のために必要な行為、社会的活動等にも介助が必要であるという原告の状態からは高次脳機能障害の程度が2級3号に該当するものに近いことから、介助・看視・声掛け等を内容とする随時付添介護を認めている。
| 裁判例(5)東京地判平成18年3月29日(交民39巻2号472頁) | |
| 年齢 | 32歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 |
頭部外傷後遺症、高次脳機能障害、眼筋機能障害、視野 狭窄、顔面骨骨折、意識障害、右尺骨骨折、左脛骨骨折、うつ病、左眼外転神経麻痺、中耳炎、感音難聴等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害5級2号及び外貌醜状7級12号等の併合3級 |
| 被害者側の状況 | 記憶障害、注意力低下、意欲低下、社会的適応能力低下、性格変化が著しく、平衡機能障害のために長時間歩行が困難であり、さらに、抑うつ状態もあり、自宅にこもり臥床がち |
| 介護内容 | 随時の看視・声かけ、外出する際の送迎や付添等 |
| 認定された介護費用 | 近親者及び職業介護人日額4000円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告の後遺障害からすれば、注意力が散漫になったり、記憶が低下したため、時に看視や声掛けを要するほか、抑うつ状態や意欲低下、平衡機能障害により原告が自ら行うことができない家事を代わって行うことや、歩行が安定せず、頻繁に横になるため、外出する際に送迎や付添等の援助が必要となることを認めた。
しかし、原告の日常生活動作は自立しており、基本的には、家族とも他人とも話しは通じること及び買い物もどうにかできる状態であり、金銭管理のトラブルも窺えないことからは、日常生活全般にわたり、常時介護を要する状態であるとは認められないとして、将来介護費用を近親者職業介護人ともに日額4000円と算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告に平衡機能障害があることを重視して看視、声かけだけでなく付添も必要であると判断し、随時介護を認めている。
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裁判例(6)前橋地裁高崎支判平成18年9月15日 (自保ジャーナル第1688号) |
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| 年齢 | 19歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 脳挫傷、肺挫傷、左上腕骨骨折、左下腿骨折等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害5級2号 |
| 被害者側の状況 |
記憶・記銘力障害、集中力障害、遂行機能障害、判断力低下、病識欠落、左片麻痺等 事故後保佐開始の審判を受けた |
| 介護内容 | 支援及び行き慣れない場所に付き添うこと等 |
| 認定された介護費用 | 近親者日額1500円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告には記銘力障害があり、自分の知っている範囲内の生活は自立し、決まりきったことの繰り返しには対応できるが、突然の出来事には対応できなかったり、あるいは自分の知らない所には行けない、更に社会とのかかわりを持つための活動(金銭管理や公共の手続など)に関して支援が必要であり、行き慣れない場所には付き添うこと等が必要な状態にあることが認められるとして、近親者日額1、500円と算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、社会的活動等に関して支援が必要なことを理由として随時介護を認めた。
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裁判例(7)前掲 頁岡山地裁倉敷支判平成18年11月14日 (自保ジャーナル第1680号) |
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| 年齢 | 28歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 頭部打撲、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、右頬骨骨折、両側慢性硬膜下出血、脳挫傷、びまん性軸索損傷等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害3級3号及び半盲症9級3号の併合2級 |
| 被害者側の状況 |
記憶障害、知能低下、注意力障害 事故後父親が保佐人に選任された 退院後も心療科の診察にはほとんど父親が同行している |
| 介護内容 | 看視及び援助並びに治療のための随時の付添 |
| 認定された介護費用 |
口頭弁論終結前まで:近親者日額4000円 口頭弁論終結後以降:近親者日額2000円 |
【上記認定に至った理由】
前掲参照。
【本裁判例の特徴】
前掲参照。
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裁判例(8)東京地裁八王子支判平成14年7月4日 (自保ジャーナル第1473号) |
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| 年齢 | 25歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 脳挫傷、びまん性軸索損傷、症候性てんかん、外傷性くも膜下出血 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害3級3号 |
| 被害者側の状況 |
記憶・記銘力低下、易怒性、軽度右方麻痺等 他者や原告の介護をしていた妹に対し暴力を振るったり脅したりすることがあった |
| 介護内容 | 生活及び行動の看視 |
| 認定された介護費用 | 近親者等日額6000円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告は、症状固定後も、火の始末が十分できないことや易興奮性及び易怒性の障害によって、ささいなことで他人と険悪な状態となり易い状態には変わりがなく、これらの障害は、高次脳機能障害に基づくものであるから、原告の自発的な努力によって改善されることは困難であると考えられるので、近親者等による看視が必要であると認められるとした上で、将来介護費用を近親者日額6000円で算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告が介護をしていた妹に暴力を振るっているものの、他の近親者や近親者でなくとも原告のことを思ってくれている人の言うことには比較的従いやすいとして、職業介護人による介護までは必要ないとして近親者介護を認めた。
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裁判例(9)名古屋地判平成12年5月29日 (自保ジャーナル第1364号) |
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| 年齢 | 24歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 頭蓋骨骨折、くも膜下出血、脳挫傷等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害3級3号 |
| 被害者側の状況 | 重度の記憶力障害、軽度?中度の注意力障害、病識欠落等 |
| 介護内容 | 事故等防止のための監視、付添 |
| 認定された介護費用 | 近親者日額3000円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告は日常生活に必要な行動については自立しているが、重度記憶力障害、軽度?中度の注意力障害という後遺障害が残り、そのため事故等が起こることを防止するための監視が必要であるとした上で、将来にわたる付添の必要が認められるとして、将来介護費用を近親者日額3000円で算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、事故防止のために監視が必要であるとしながら、随時介護の必要性があるとまではいえないとして随時介護の必要性を否定しており、介護と監視とを異なるものとして区別している。
| 裁判例(10)東京地判平成16年9月22日(自保ジャーナル第1562号) | |
| 年齢 | 16歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 脳挫傷、びまん性軸索損傷、右同名半盲、右動眼神経麻痺等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害5級2号及び複視12級等との併合4級 |
| 被害者側の状況 | 記銘力低下、注意力低下、知能低下、易怒性 |
| 介護内容 | 随時の看視・声かけ |
| 認定された介護費用 | 近親者日額2000円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告の後遺障害の内容・程度、医師らの診断及び意見から、原告の外出時、特に初めての場所に外出するときには、その道順や交通機関の利用について記憶、判断が適切になし得ないため、付添いを要したり、時に、日常生活動作ないし日常生活関連動作を促したり、トラブルが起きたときの対処やアルコール摂取等の健康管理において適切な援助を必要とすることは否定し得ないが、看視や声掛けが必要であるのは、専ら前記のような場合であり、原告に対する介護の内容は、随時の看視・声掛けであり、常時原告がそれらを必要とするとはいえないとして、将来介護費用を近親者職業介護人ともに日額2000円で算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告の自立性から常時介護の必要性を否定した上で、初めての場所に外出するときや、健康管理のため等一定の場合には看視や声かけが必要になることから随時の看視・声かけの必要性はあるとして随時看視を認めている。
| 裁判例(11)大阪地判平成17年4月13日(自保ジャーナル第1594号) | |
| 年齢 | 38歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 頭蓋骨骨折、くも膜下出血等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害3級3号 |
| 被害者側の状況 | 予測能力や理解能力の不足、意思疎通能力の不足、易怒性、時折異常行動をとる |
| 介護内容 | 随時の看視 |
| 認定された介護費用 | 近親者日額2000円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告は、日常生活は概ね自立しているということができるが、他方で、場面に応じて指示をしなければ、身なりや洗髪・着替え等の衛生維持、危険回避等ができず、スーパーで怒鳴ったり、試食品を食べ続ける等の異常行動も見られ、息子に暴力を振るったり、マッチの火を点けて見せるなどの危険行動もする場面があるというのであり、日常生活を営む上でも、常時の介護までは必要ではないものの、随時、ある程度の間隔を置いて、定期的に看視することが必要であるとして、近親者日額2000円で算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告が日常生活は概ね自立できることを理由に常時介護は必要ないとしつつも日常生活を適切に営むことができない場面、異常行動、危険行動があることから随時の看視は必要であるとした。
なお、この裁判例は、自賠責の後遺障害等級3級における介護の要否についてもなお書きで見解を述べており、「自賠責の後遺障害認定において、3級の認定においては、随時看視までは必要がないとの考えが示されているが、高次脳機能障害の場合には、その障害のありようが非常に複雑な様相を呈するために、日常生活行動能力の自立の問題と本人の自発性に基づく自立性の問題とは次元を異にし、必ずしも合致しない場面が多く見られると考えられるし、日常生活として健康で文化的な最低限度の生活を維持する上で衛生や危険回避等について一定の配慮を要する場合が多々あり得ると考える余地がある。
また、高次脳機能障害の複雑さに鑑みれば、指示の下に軽作業として就労が可能であることと、日常生活として複雑高度な判断を迫られる場面においてはこれができないということは互いに矛盾せず両立すると考える余地がある。そうすると、ある程度の間隔を置いて、近親者が自宅に待機して不都合が生じてきた場合などには指示や看視をしなければなら」ないとして、介護・看視の必要性について、3級であるから必要性はないと形式的に判断するのではなく、高次脳機能障害の特殊性から実質的に判断すべきとして一定の方向を示している。
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裁判例(12)京都地判平成17年12月15日 (自保ジャーナル第1632号) |
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| 年齢 | 43歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 左頭頂骨骨折、脳挫傷、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、急性硬膜外血腫、外傷性てんかん、頸椎椎間板ヘルニア、聴力障害 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害5級2号及び味覚障害12級等との併合4級 |
| 被害者側の状況 | 記憶障害、記銘力障害、地誌的障害、遂行機能障害、注意障害、情動・人格障害 |
| 介護内容 | 近親者による看視的な介助 |
| 認定された介護費用 | 近親者日額2500円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告が勤務先を退職した後は自宅に引き籠もり、注意障害、記憶障害、地誌障害等により、周囲との関係で日常生活に具体的な支障が現出していることから、近親者による看視的な介助がある程度必要であることが認められるとして、近親者日額2500円で算定した。
| 裁判例(13)東京地判平成19年3月1日(自保ジャーナル第1702号) | |
| 年齢 | 40歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 脳挫傷、左下腿開放骨折、左肩骨折、右膝骨折、全身擦過傷、左下腿裂傷、症候性てんかん等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害2級3号及び下肢変形障害8級等との併合1級 |
| 被害者側の状況 |
知能レベル低下、記憶障害等 原告宅に週2回ヘルパーが来訪している |
| 介護内容 | 随時の看視や声かけ |
| 認定された介護費用 | 近親者日額2000円 |
【上記認定に至った理由】
1 まず、自賠責認定では上記のとおり併合1級に認定されたものの、裁判所は、改善しているとして高次脳機能障害を5級と認定し併合3級を認定した。
2 次に、将来介護の要否について、原告には他の者の介護や付添いによらず、独立して生計を立てる生活までを期待することはできず、本件事故によるうつ症状の悪化、記憶障害及び知能レベルの低下の継続によって、一定の看視やコミュニケーションを必要とする状態にあると評価でき、介護としての看視や声掛けが随時必要であるといえるが、常時介護としての看視や声掛けを必要とする状態であるとまでいうことはできないとした。
そして、具体的な介護内容としては、初めての場所に外出するときには、付添いを要したり、必要に応じて原告に対して日常生活動作及び日常生活関連動作や日常生活上の注意を促し、また、食事を用意して声を掛けたり、外出のための声掛けをするなどといった程度の看視等で足りるといえるとして近親者職業介護人ともに日額2000円で算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告が独立して生計を立てることは期待できないとした上で、初めての場所に外出する際等には付添が必要であることを理由に随時看視を認めている。
| 裁判例(14)横浜地判平成19年3月12日(自保ジャーナル第1696号) | |
| 年齢 | 9歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 脳挫傷、頭蓋骨骨折、髄液漏、血胸、外傷性てんかん、頭蓋骨陥没骨折等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害5級2号、醜状7級、半盲9級との併合3級 |
| 被害者側の状況 |
記憶・記銘力障害、計画的な行動遂行能力の障害、易怒性・自発性低下などの人格変化等 家庭では原告の母親が、学校では教師らによって、適時原告に対する指示や声かけが行われている |
| 介護内容 | 随時の声かけ、指示 |
| 認定された介護費用 | 近親者日額4000円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告には日常生活や学校生活において、身体的な介助はさほど必要でなく、常時の付添は必要でないとした。
しかし、高次脳機能障害に由来する記憶・記銘力の障害、遂行能力の障害の影響が強いため、生活ないし学習上の行動に支障をきたすことが多く、そのため、母親や教師らによって、適時、原告に対する指示や声かけが行われていること、抗てんかん薬についても、かかる指示がないと原告は確実な服薬ができないこと、そして、原告の性格変化に由来する他者とのコミュニケーション上の障害が生じているために、原告は学校における対人関係において困難を生じていること等から、随時、原告に対して必要とされる声かけや指示を行う内容の介護を要するものというべきであるとして、将来介護費用を近親者日額4000円で算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、家庭や学校で声かけ等が行われているという実態や対人関係に支障が生じていることを理由として随時介護を認めている。
なお、本裁判例は、介護という言葉を使用してはいるが、身体的な介助はさほど必要ではない旨述べ、介護の内容としても声かけや指示を挙げており実質的には看視を認めたといえる。
| 裁判例(15)東京地判平成19年3月26日(自保ジャーナル第1702号) | |
| 年齢 | 57歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 脳挫傷、頭蓋骨骨折、後頭部挫創、頸椎捻挫等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害3級3号 |
| 被害者側の状況 | 記憶障害、談話機能の低下、遂行機能の低下等 |
| 介護内容 | 随時の監視、声かけ |
| 認定された介護費用 | 近親者日額3300円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告の日常生活動作は自立しており、生活行動は外出につき援助が必要なものの、買物については自立しており、基本動作もおおむね問題がないとし、また、脳の損傷の結果、短期記憶が低下するなど、持続力・集中力や社会行動能力の欠如又は著しい低下がみられるものの、意思疎通能力や問題解決能力についてはおおむね自立し又は援助があれば可能な状態にあることから、監視や声かけなどの必要はあるとしても、常時介護する必要まではないというべきであるとして近親者日額3300円で算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、おおむね自立していること等を理由に、常時介護の必要性を否定したものの、外出には援助が必要であることや社会行動能力の欠如等から随時看視を認めている。
| 裁判例(16)横浜地判平成19年3月29日(自保ジャーナル第1696号) | |
| 年齢 | 19歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 頭部外傷、骨盤骨骨折、全身打撲 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害5級2号 |
| 被害者側の状況 |
記憶障害、遂行機能障害、易怒性 原告は一人暮らしをしているが、原告の両親は原告に頻繁に連絡を取り、生活状況の確認等を行っている。 |
| 介護内容 | 随時の看視、声かけ |
| 認定された介護費用 | 近親者日額2000円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告が大学の講義が実施される教室の場所が覚えられずに度々遅刻をし、卒業が難しいことや通常の対人関係が保てなくなりつつあるといった事情を認定した上で、一応の日常生活動作は可能であるものの、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、判断力低下、対人技能拙劣等が見られ、随時看視及び声かけを要する状態が生涯続くものと認められるとして、対人関係の支障等から随時看視を認め、将来介護費用を近親者日額2000円で算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告が一人暮らしをしていても両親の指示や確認等がなされているという状況や対人関係の支障等が生じていることを理由として随時看視を認めている。
| 裁判例(17)東京地判平成20年1月24日(自保ジャーナル第1734号) | |
| 年齢 | 40歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 外傷性くも膜下出血、頭部外傷、右股関節後方脱臼骨折、肺挫傷等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害5級2号及び右下肢関節機能障害12級7号等の併合4級 |
| 被害者側の状況 |
記憶障害、意思疎通能力低下、人格変化等 施設に入所するも人間関係がうまくいかず粗暴等で退所 |
| 介護内容 | 随時の看視、声かけ、付添 |
| 認定された介護費用 | 近親者日額5000円 |
【上記認定に至った理由】
1 まず、自賠責認定では上記のとおり高次脳機能障害は5級2号に認定されたものの、裁判所は、原告の状況や障害等級1級の保険福祉手帳が交付されたこと等を考慮して高次脳機能障害を3級と認定した。
2 次に、将来介護の要否について、原告は日常生活において、食事、着替え、入浴、排泄等を、基本的に他人の介助によらずに行うことが可能であるが、原告の妻が、原告に対して、食事や着替え等の準備をする必要があるほか、日常生活のほぼ全般にわたって随時声掛けを行って行動に出ることを促す必要があり、また、食事の量、火の取扱い、金銭管理等について注意することなども必要であることからすれば、親族による付添いが必要であるとした。
そして、必要とされる付添いの内容としては声掛け及び看視が中心であるとして、将来介護費用を近親者日額5000円で算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告の後遺障害の内容・程度を具体的に検討した上で自賠責よりも高い認定を行うとともに、随時看視等を認めた。
| 裁判例(18)東京地判平成20年3月19日(自保ジャーナル第1738号) | |
| 年齢 | 29歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 頭部外傷、脳挫傷、外傷性脳出血等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害5級2号と嗅覚障害12級との併合4級 |
| 被害者側の状況 |
記憶・学習・遂行機能障害著明、何を話していたか忘れてしまい支離滅裂になる。 原告の両親や、同居人が付添看護を行っている。 |
| 介護内容 | 随時の看視・声掛け |
| 認定された介護費用 | 近親者日額1000円 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告の状況について、日常生活で支障が生じていること及び医師の所見から記銘力障害、学習障害が著明であり、社会生活が困難であること等を認定したが、原告は単独で外出ができること、基本的な日常生活動作は自立していること、単身での生活も可能であったことから、原告に求められる付添介護の内容については、随時の看視・声かけで十分であり、常時原告がそれらを必要とするものではないとして、将来介護費用を平均余命まで54年間日額1000円で算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、症状固定後の原告の状態を時系列に沿って詳細に認定した上で、随時看視を認めた。
| 裁判例(19)名古屋地判平成17年9月9日(交民38巻5号1234頁) | |
| 年齢 | 10歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 頭部外傷(頭蓋骨骨折等) |
| 自賠責等級 | 不明 |
| 被害者側の状況 |
学習障害、記銘力障害、性格変化等 中学卒業後上記判決日に至るまでオーストラリアでホームステイをして学校に通っている |
| 介護内容 | 否定 |
| 認定された介護費用 | 否定 |
【上記認定に至った理由】
裁判所は、原告に記銘力障害、学習障害などの後遺障害が認められるとした上で、証人の証言及び原告本人尋問の結果中に、随時付添、看視及び声掛け等の介護の必要性をうかがわせる部分が存在するものの、原告が日常生活を営む上で最低限度必要な活動は自ら行うことができ、中学卒業後、現在に至るまで、オーストラリアでホームステイをして学校に通っており、そこでの生活に適応して日々暮らしていることが認められるのであり、他に原告の介護の必要性を認めるに足りる証拠もない以上、介護の必要性はないとした。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告が日常生活を営む上で最低限度必要な活動を自ら行うことができることを理由として将来介護を否定した。
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裁判例(20)大阪地裁堺支判平成18年4月14日 (自保ジャーナル第1662号) |
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| 年齢 | 25歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 全身打撲、脳挫傷、急性硬膜下血腫、意識障害、左大腿骨骨折 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害2級3号 |
| 被害者側の状況 |
記銘力障害、意思疎通能力、問題解決能力低下等 会社には1人で通勤している |
| 介護内容 | 否定 |
| 認定された介護費用 | 否定 |
【上記認定に至った理由】
1 裁判所は、自賠責認定では上記のとおり高次脳機能障害2級3号に認定されたものの、原告の生活状況を検討し,後述のように将来介護が随時必要であるとまではいえないとして高次脳機能障害を5級と認定した。
2 将来介護の要否については、原告は、日常生活上の食事、入浴、用便、更衣など身の回りのことは自分でできており、一人で通勤して,終業後は遊興して帰宅するという生活を送っているのであって、特に異常な行動に及んでいると認めるべき証拠もないことから、原告が生活するために、介護が随時必要であるとまではいえないとして、将来介護を否定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、上記のように原告の状況からは、日常生活に支障がないとして将来介護を否定したものの、日常生活における自発性の欠如等の問題点は逸失利益の中において既に評価しているとの考えを示した。
このように、上記裁判例を検討すると介護が要件とはされていない3級以下の後遺障害等級であっても、被害者が完全には自立できない状態にある場合には介護(看視)が認められていることがわかる。
具体的には、
食事等日常生活動作に支障がある場合(裁判例(1)(4)(7)(10)(11)(13)(17))、
危険回避(裁判例(4)(8)(9)(11))、
初めての場所に行く際(裁判例(6)(10)(13))、
他者とのコミュニケーションに支障がある場合(裁判例(4)(8)(12)(14)(16)(18))
には介護が認められる傾向にあるといえる。この点については前掲裁判例(11)が参考になるといえる。
他方、日常生活動作に支障がない場合には介護は否定される傾向にあるといえる(裁判例(19)(20))。
そして、介護の要否の認定においては医師の意見書(裁判例(3))や現実に介護等をしているという実態も重視される傾向にあるといえる(裁判例(2)(4)(7))。
さらに、介護が認められるとしてもその内容としては看視を必要とするものが多く(裁判例(9)等)、その程度についても「常時」ではなく「随時」とするものがほとんどであるといえる。
また、火の用心や食事等、日常生活における重要部分について、随時看視が必要であると認定される傾向にあるものといえる。この点について、前掲吉本智信『高次脳機能障害と損害賠償』137頁((株)自保ジャーナル、第二版、2005)では、看視(著者は監視=看視として扱っている)を看視が必要な行為が生存に結びついているかどうかという視点から、「個人生活を営むにも監視が必要な場合を重度の監視、社会生活を営むのに必要な場合が軽度の監視」というように分けた上で、重度の監視=介護、軽度の監視≠介護としていることが参考になると思われる。
「3級以下の高次脳機能障害でも介護(看視)が必要となる場合」のカテゴリ
参考文献
(1)和田勝ほか『介護保険の手引平成19年版』(ぎょうせい、平成19年)
(2)長瀬二三男『介護保険法の解説四訂版』(一橋出版、平成17年)
(3)鏡諭ほか『介護保険なんでも質問室改訂版』(ぎょうせい、平成18年)
(4)東京三弁護士会交通事故処理委員会『新しい交通賠償論の胎動』83頁(ぎょうせい、第三版平成15年)
(5)高取真理子「重度後遺障害に伴う諸問題 将来の介護費用を中心として」損害賠償額算定基準2004年版332頁(平成16年)
(6)高野正人『高齢被害者の介護費用損害と介護保険』交通30号99頁
(7)財団法人交通事故紛争処理センター『交通事故損害賠償の新潮流』452頁(ぎょうせい、平成16年)
(8)財団法人日弁連交通事故相談センター『交通事故損害額算定基準―実務運用と解説―』179頁((財)日弁連交通事故相談センター、平成20年)
(9)高野真人「社会保険給付と損益相殺・代位の問題点」交通賠償論の新次元206頁(平成19年)
(10)松居英二「将来介護費」交通賠償論の新次元(平成19年)
(11)藤村和夫「将来の介護費について」交通賠償論の新次元(平成19年)
(12)湯川浩昭「施設入所中の重度後遺障害者の損害算定に関する諸問題」損害賠償額算定基準2008年版(平成20年)
(13)高野真人編『後遺障害等級認定と裁判実務―訴訟上の争点と実務の視点―』(新日本法規、平成20年)
(14)佐野誠「定期金賠償の動向と課題」交通賠償論の新次元(平成19年)
(15)石田憲一「定期金賠償の動向」損害賠償額算定基準2004年版(平成16年)
(16)東京三弁護士会交通事故処理委員会『新しい交通賠償論の胎動』(ぎょうせい、第三版平成15年)
(17)大島眞一「重度後遺障害事案における将来の介護費用(一時金賠償から定期金賠償へ)」「判例タイムズNo1169」(判例タイムズ社、2005)
(1)吉本智信『高次脳機能障害と損害賠償』137頁((株)且ゥ保ジャーナル、第二版、2005)
(2)蛭川明彦「後遺障害等級3級以下に相当する後遺障害を有する者に係る介護費用及び家屋改造費について」損害賠償額算定基準2007年版209頁(平成19年)
(3)羽成守編『新型・非典型後遺障害の評価』182頁〔松居英二〕(新日本法規、平成17年)
(4)松居英二「将来介護費」交通賠償論の新次元124頁(平成19年)
(5)藤村和夫「将来の介護費について」交通賠償論の新次元138頁(平成19年)
(6)谷原誠ほか『交通事故被害者のための損害賠償交渉術』138頁(同文舘、平成18年)